PersonalScenarioBody.fmg
None
DarkSouls3
False
遥か故郷より、霧深い海を渡り
追跡者はリムベルドに辿り着いた
夜渡りの戦士は、その存在と記憶を擦り減らしながら戦う
どれだけの夜を戦い続けているのか、もはや定かではない
だが、一つだけ確かなことがある
夜の王を追い、そして屠る
ただその一事のみが、追跡者の為すべきことだ
…そのはずだ
言い聞かせながら、追跡者は掌中のそれを握りしめた
片割れしかない耳飾りを
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円卓の片隅、薄暗い室内に天井から光が射し込んでいる
追跡者は手にした耳飾りを頭上にかざす
光に透かされ、刻まれた文様が浮かび上がるが
意味を持った形にはならない
追跡者は確かに知っている
そこには文字が… いや、ある一節が刻まれていることを
だが、どうしてもそれが思い出せない
どこで失ったか分からないが
もう片割れを見つけられれば、思い出せるだろうに…
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故郷を夢に見た
風鳴り丘を、二頭の馬が駆けている
双子の馬がまともに育つことは稀だ
追跡者にとっても、 にとっても、二頭は特別だった
丘の頂で轡を並べ、隣に目をやる
しなやかな髪が風に踊り、左耳の耳飾りが揺れている
だが… その顔は、がらんどうで、どうしても埋まらない
「…追跡者サマ、いらっしゃいますか」
召使人形の声が、追跡者を呼び覚ました
きっと、またいつもの頼み事だろう
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再び片割れとなった耳飾りを握り、追跡者は眠りに落ちた
風鳴り丘に、日が落ちかけている
その名を示すように、身を切る風が鳴り止まない
じき約束の冬が来る
初霜が降りる頃には、片割れは旅立ち、もういない
押し黙る追跡者に、 は、いつもの笑みをこぼした
そして耳飾りを指で弾く
「しばしの別れです、兄上
事を成せば、また会いましょう」
名前さえ未だ思い出せぬ。だが、妹は確かにそう言っていた
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妹のことを秘めたまま、追跡者は戦い続けていた
すべては事を成した、その先にあるのだから
円卓に戻ると、召使人形からの置手紙が残されていた
なぜ、あの耳飾りに追跡者サマが固執されたのか…
私なりに考えておりました
そして気づいたのです
お二人は… とても、よく似ておいでだと
私には、それが分かるのです
貴方サマに知っていただきたいことが、ございます
どうか書庫をお検めください
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幾度となく、あの日の夢を見る
長い夜は、同胞たちを狂わせ
争いの後、風鳴り丘には、ただ無数の墓標だけが残った
従弟のファルハドではなく、幼いシリンではなく
そして長たる父でもなく、生き残ったのは自分だった
だからこそ、必ず復讐を果たし、夜を終わらせねばならぬ
だが…
「事を成せば、お別れね」
夜の終わりのその先に
双子の馬が並んで駆けることは、もう無い
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大剣を抱え、追跡者はまどろんでいる
不意に、衣擦れと
次いで硬質な… 何かが置かれる音がした
追跡者は目を覚まし、ゆっくりと身を起こした
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掌中の銀の雫は、柔らかく脈打っている
追跡者の荷物の傍らには
見覚えのある、ひとつのブローチが置かれていた
離れていても共に戦えるよう、縁となるものを戦士に託す
その風鳴り丘の風習を、妹も覚えていたのだろうか…
習わしの通り外套にブローチを付け、そっと手を添える
「事を成せば、お別れだ」
双子の馬が並んで駆けることは、叶わない
だが、願わくは、その片割れだけでも
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やがて、新たな夜の王が生まれた
円卓は消滅をまぬがれ、作り変えられるだろう
新たな夜に備えるために
それは巫女を解放するに足るものだったか
確かめる術は、もはや男にない
王は歩み続ける
たとえ、双子の馬が再び出会うことがないとしても
召使人形からの手紙
レディが円卓に導かれ、間もない頃のもの
こうしておいでになる日を、待ち侘びておりました
巫女サマが円卓を導き、夜の王を屠る
それをお支えするために、私は配されたのです
お庭には花々が咲き誇っておりますし
書庫に古今の名著、東西の稀書のご用意があります
お食事についても、何なりとお申し付けを
ああ、それから。どうか、お召替えください
今はもう義賊ではなく、円卓の巫女サマなのですから
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召使人形からの手紙
追跡者が円卓に導かれた時のもの
新しい英雄サマのご容態
落ち着かれたようで何よりです
この円卓に導かれる前
外の世界で負われた傷だったのでしょうか…
当面、私の方でも経過を見守ることにいたします
ともあれ
夜渡りの戦士サマの来訪は、喜ばしいことです
立派な大剣の遣い手のご様子
きっと夜との戦いで、お力になってくださるはず
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召使人形からの手紙
他愛のない、日々のやり取りの一つ
ご用命いただいているパンですが
なかなか上手くいかず、申し訳ございません
無頼漢サマにもお味見を手伝っていただいていますので
今度作る際には、きっとお味を近づけてみせます
ところで、無頼漢サマといえば
何やら巫女サマにお話があるご様子でした
お声がけしてみてはいかがでしょうか
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召使人形からの手紙
幾度か書き直したような跡がある
追跡者サマのことですが…
残念ながら、こうしたことは、ままあります
円卓に導かれるより前
外の世界で負われた傷が原因で
生命力が弱られているものと推察されます
夜の王打倒が叶ったとき
あの方は不帰の客となりましょう
それでも、私たちは歩みを止めてはならないのです
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召使人形からの手紙
幾度か書き直したような跡がある
追跡者サマのことですが…
残念ながら、こうしたことは、ままあります
円卓に導かれるより前
外の世界で負われた傷が原因で
生命力が弱られているものと推察されます
夜の王打倒が叶ったとき
あの方は不帰の客となりましょう
それでも、私たちは歩みを止めてはならないのです
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召使人形からの手紙
焦っているのか、筆致にやや乱れがある
巫女サマが追跡者サマのことを深く案じ
悲しんでおられること、存じ上げております
私の方でも、あの方のご様子を伺っておりましたが
何かの支度をなさっていた痕跡があります
そして、今日はお姿が見えません
生命力の衰弱を踏まえると、万が一ということもあります
どうか追跡者サマをお探しください
おそらく、円卓のどこかにはいらっしゃるはず…
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召使人形からの手紙
いつにもまして丁寧に、書き綴られている
夜を渡るうち、どれほど大切な想いも、零れてゆくもの…
お兄サマの記憶を取り戻されたのは、僥倖と言えましょう
ですから、行く末を案じられるのは分かります
…しかし、これだけはお忘れなきよう
私たちは、夜の王を屠るため円卓に集ったのです
皆サマもまた、巫女サマのことを案じられています
とりわけ無頼漢サマは、気を揉まれておいでです
お声がけしてみては、いかがでしょう
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召使人形の書いた手紙
破り捨てられ、結局は差し出されなかったもの
ご存じの通り巫女サマは、円卓に縛られておいでです
ですが生きた体ではないのなら
円卓から送り出すことが叶うやもしれません
そのためには…
レディは破られた紙片を握りしめていた
手放しかけていた思いを、そうするように
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召使人形の書いた手紙
破り捨てられたそれを、繋ぎ合わせたもの
そのためには…
死に瀕した外界の追跡者サマに繋がる
縁となるものが必要です
あの方が身に付けていたものに、祝福を授ければ
それが縁となりましょう
ですが、これは言わば賭けのようなもの
そして何より、巫女サマを独り残してなど…
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召使人形に向けた手紙
私を支えてくれた友へ
祝福した縁を辿り、どうか兄を救って欲しい
その為にも、まずは夜の王を片付けるとしよう
私は、どちらかではなく、どちらも為そうと思う
それが叶うと、今ならば信じられる
この髪留めが、私を奮い立たせてくれるから
近海の海賊は、何より好敵手を求める
ゆえに無頼漢は、自らリムベルドに乗り込んだ
夜の王の襲来が、己の求めるものをもたらす
そう直感したのだ
円卓に足を踏み入れたとき
無頼漢はそれが正しかったと理解した
白角の兜を通して、かすかに、だが確かに…
かつての近海と同じ、波のさざめきを感じる
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無頼漢は兜を脱ぎ、ゴトリと床に置いた
夜との戦いに果ては無く、飽く暇もない
…だが、一方でどこか満たされぬものがある
「そうは思わんか、戦友よ」
ぼやきながら無頼漢は、己の愛用の兜
その白角をゴンゴンと小突いた
傷だらけの角が、今までの戦いの歴史を物語っている
魂をぶつけ合うような死闘。血潮たぎる好敵手
円卓のどこかから、その気配がするのだが…
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狭間杯の戦いを終え
いつものように白角の兜と向き合った
悪くない気分だ。だが、まだ足りない
そして、召使人形の言葉を思い起こす
「運命の相手と巡り会える、か」
近海の海賊にとって、それ以上の宝は無い
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戦いの予感が、近海での古い記憶を呼び起こす
「あー… 生きてますか、船長?」
航海士の風見鶏が、波打ち際に倒れた無頼漢を呼ぶ
無頼漢は目深にかぶった兜を、乱暴に叩いて答えた
その拍子に血が噴き出したが、構いやしない
「…やあ、ずいぶんお元気そうで」
風見鶏は呆れた風に言いながら、何かを熱心に書いている
そして無頼漢の視線に気づき、不敵に笑った
「せっかく、化け物同士の死闘を間近で見たんだ
書き物で一山あてようかと思いましてね」
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狭間杯の戦いを終えた無頼漢に、鉄の目が尋ねる
「白角と黒爪…だったか。興味をそそられる話だ
近海では決着がつかなったというが、その訳は?」
この施設の暗殺者は、こと戦いに関してはいつもより饒舌だ
「がはは、さてな…
どうあれ、一つ言えることがある」
無頼漢は笑い、それから兜をゴンと叩いた
「近海の男は、戦いの約束を忘れやしない
いついかなる時もな」
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無頼漢は待った
狭間杯の最後の戦い。その始まりを
召使人形が、石碑を探りながら告げる
「戦いを告げる合図が見られません
おそらくは、決勝戦のお相手に何かが…」
無頼漢の腹は決まっている
こうした時は待つしかない
決まって奴は遅れて来るのだ
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潮の匂いが、近海での古い記憶を呼び起こす
約束の浜辺に座す無頼漢に、風見鶏が告げる
「…諦めな船長、奴は夜に飲まれたんだ」
無頼漢は闇に沈んだ西の海を望みながら、白角の兜を叩いた
「もうしばらく、こいつは預かっておくさ」
古い記憶と向き合ううち、かすかに波のさざめきが聞こえた
その兆しに、無頼漢は静かに目を開く
俺たちの戦いは、いつだって海に呼ばれているのだ
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約束の戦いは果たされ、狭間杯はその幕を閉じた
白角の兜を、その持ち主に返し、無頼漢は黒爪に戻った
心地よい風が頬を撫でる
風見鶏ならば、この戦いを何と締めくくっただろうか…
近海の海賊は、何より好敵手を求める
だが今は、波のさざめきは聞こえない
無頼漢の海は、ただ凪いでいる
鎧と混じり合った 我が身
絵筆を 手に取る
己が存在 向き合うために
描き上げたもの
それこそ 我が記憶の断片
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黄金樹
私は 絵描き
遠く葦の地から流れ着き 魅せられた
完成 していない
何かが 欠けている
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花
じんわり ぬくもり感じる
あばら屋の画室 咲いていた 同じ花
私は 絵描き 黄金樹を描いていた
私は 客人 剣を携えていた
私は 物言わず それを見ていた
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客人
私は 客人
あるいは 私にとって 処刑人
客人の男 告げる
せめて 待ってやろう
「黄金樹」の 完成までは
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古い友
「黄金樹」 未だ完成せず
息抜きに 描いた習作
葦の地からの 古い馴染み
物言わぬ友
この古い友 客人に託そう
「黄金樹」は どうやら間に合わぬ
じき 来るだろう 代わりの処刑人
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坩堝の騎士
私の 客人
あるいは 私にとって 処刑人の肖像
坩堝とは 混じりもの
客人は どちらかに 決められず
黄金樹を望む 画室にて
最期のあの時まで
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執行者
二人と一振り それこそが私
いかにも血塗られている
だが 夜を屠るには役立とう
そして
夜を渡った その先で
きっと「黄金樹」を
私は「深き森の魔女たち」の一人
同志たちは、私を隠者と呼ぶ
森の深奥を離れ
リムベルドまで訪れたのには理由がある
影にまつわる、探しものをするつもり
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私は、そう
「大切な幼子」を探してる
手がかりを集めて、見つけ出さなくては
まずはお手伝いさんに、聞いてみようかしら
■手がかり:大切な幼子
魔女である私が、生み出した子
名前は付けてないけれど、「かじりやさん」と呼んでいた
古い魔力を辿って、大まかな居場所まではつかんでる
このリムベルドのどこかに、きっといるはず
この子と夜の繋がりを探るため「夜の欠片」を見つけたい
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お手伝いさんの調べ物を待つ間、旧い友のことを想う
幼子を見つけるのは
いまは亡き彼女への贖罪でもあるのだから
■手がかり:輪の魔女
旧い友で、学びの同志
それから、幼子の乳母でもあった
「かじりやさん」は、食いしん坊で見境がない
だから、食事のお世話は彼女にお願いしてた
輪の魔女は、欺瞞の魔女
そうした手管は、お手の物だもの
得られた痕跡が、推測の正しさを裏付ける
多くの王が蔓延っているのは、先触れに過ぎず
王たらしめる力を導いている者が、その後ろにいる
もう少し集められれば、核心に触れることができる
やはり、考えに間違いはないようだった
夜の力は、古い魔力とよく似た性質を見せている
どこか懐かしく、親しみのある、身近なもの…
あの子は、きっと近くにいる
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お手伝いさんからの書置きがあった
どうやら調べ物が進んだみたい
夜の欠片から、あの子の痕跡を辿れるかもしれない
欠片を返してもらって、確かめてみましょう
■手がかり:お手伝いさん
木の人形に見える
最近は調べ物を手伝ってくれてる
そのせいで、忙しいのかしら
他の戦士さんとお話しているのを、近ごろ見かけない
何だか影が薄くなっちゃったみたい
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夜の欠片を使って、あの子に繋がる痕跡を見つけた
あらためて、見つけた手がかりを確認してみましょう
■手がかり:夜の痕跡
夜の欠片の噛み痕と、円卓に紛れ込んでた夜の痕跡…
どちらからも、私が込めた古い魔力を感じる
私の幼子は、あの日、姿を消してしまった
そのあと、きっと… どこかで夜の王にまみえたのね
あの子の食欲は旺盛で、何の影にもかじりつく
きっと夜の王の影も、おいしそうに見えたことでしょう
かじったそのあとは、いったい、どうなったのかしら…
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夜の痕跡からは、もう一つ、懐かしい魔力を感じた
幼子へ至る鍵は、彼女にある。死んだはずの、輪の魔女に
手がかりを元に、円卓に隠れた彼女を見つけてあげましょう
■手がかり:輪の魔女の最期
ある大きな戦に臨んだ時、幼子は敵軍の影を貪り蹂躙した
そして… 我を失い、私たちに牙をむいた
今なら分かる。あの子はただ、怯えていたのだと
けれど私は、それを抱き止めてあげられなかった
代償として、私は旧い友を喪った
今も鮮明に覚えている。影を失くした、彼女の亡骸を
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はじまりの場所に、赤子の泣き声が響く
引き寄せられるように声の元へ辿り着くと
隠者は、ただそっと、赤子を抱いた
輪の魔女は、感謝を告げて消えていった
隠者は残されたローブを携え、その場を後にした
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夜の王と共にいるあの子が、私に託した最後の手がかり
■手がかり:骨のような石
石にそっと触れる
そうすると、かすかに幼子の声が聴こえる
どうか、待っていて
必ずあなたの元へ行くわ
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「我らが夜を愛してくれて、ありがとう」
旧い友の別れの言葉
その残響を抱えながら、私はただ幼子を抱きしめる
あの日、できなかったことを
今はもう、泣き声は止んだ
胸の内の柔らかな夜は、ただ静かに眠っている
「施設」から、鉄の目へ宛てた指示書
親愛なる施設の子、鉄の目へ
「蝙蝠耳」から、知らせを受けました
ご苦労さま。報酬は送っておきます
近く大きな「仕事」が入りそうです
おそらく、狭間の地へ向かってもらうことになるでしょう
仔細は追って連絡します
追伸 先日の件は忘れてください。世迷言でした
あなたの後見人、イゾルデ
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「施設」から、鉄の目へ宛てた指示書
親愛なる施設の子、鉄の目へ
昏き谷の寄宿舎が壊滅した件は、把握していますね
裏切者を探し出し、除籍なさい
狭間の地に向かい、足跡を辿るのです
常の通り、その過程の一切に施設は関知しません
路銀も、情報も、あるいは協力者も
あなたの「仕事」で稼ぐのです
あなたの後見人、イゾルデ
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鉄の目から「施設」へ宛てた報告書
後見人、イゾルデへ
定期報告
届くあては無いが、書き残す
裏切り者の痕跡を辿り、円卓に着いた
巫女と呼ばれる協力者も得た
手掛かりは少ないが、いつも通りと言える
「仕事」は順調だ
鉄の目
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「施設」から、鉄の目へ宛てた指示書
親愛なる施設の子、鉄の目へ
「怪物」のことは知っていますね
その後見人が、殺されて久しいことが判明しました
昏き地の寄宿舎が壊滅した時期とも、符合しています
裏切り者は怪物である公算が高いでしょう
用心なさい
あの子もまた、施設に育まれた百足の申し子なのですから
あなたの後見人、イゾルデ
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鉄の目から「施設」へ宛てた報告書
後見人、イゾルデへ
裏切り者の… 怪物の手掛かりを得た
「施設」の者同士だ
長い戦いになるだろうが、問題ない
除籍を果たしたら、報告する
追伸
私の荷から封がされた手紙を見つけました
規則に従い、進展なければ開封します、マスター
鉄の目
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鉄の目へ宛てた、血にまみれた手紙
施設の申し子たちは、役割を終えれば除籍される定め
それゆえ、私は夢想しました
夜の力で理を覆すことを
育んだ申し子が、果てなき夜を渡り、戦い続ける様を
夜が明けぬ限りは、それが叶う
…ですが、それは愚かな過ちでした
あなたにその残酷な可能性を伝えるべきではなかった
どうか迷いを捨て、信じる道を進んでください
あなたの後見人、イゾルデ
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鉄の目から「施設」へ宛てた報告書
後見人、イゾルデへ
定期報告。届くあては無いが、書き残す
裏切り者を除籍した
あとは夜の王を倒すのみだ
追伸
安心してください、マスター
私に迷いなどありません
鉄の目
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鉄の目から「施設」へ宛てた最後の報告書
後見人、イゾルデへ
あなたは、この上ない後見人でした
俺が渇望したものを
「施設」のくびきから解き放たれる可能性を
示してくれたのですから
感謝します、マスター
これで、私の夜はまだ、終わりません
守護者は翼の国で生まれ、そして鳥人騎士となった
故国を守る、そのために
守護者の欠けた記憶には、二つの「群れ」がある
守れず失った、故国の古い群れ
そして… 共に夜を渡る、新たな群れの記憶だ
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これは、新しい群れの記憶
円卓に導かれ、ある一人の魔女と守護者は巡り会った
「これで良し。以前ほどには、飛べないでしょうけれど…」
そう呟き、隠者は翼を労わるように、そっと撫でる
守護者は己の翼を蝕む呪いが、抑えられているのを感じた
丁重に礼を言うと、隠者はただ静かに首を振った
「…気にしないで。こういったことのための、学びだもの」
守護者は、山と積まれた本に目をやった
知識があれば守れたものが、あったのかもしれない…
いつしか守護者は、彼女を「先生」と呼ぶようになった
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これは、古い群れの記憶
編隊が空を渡り、まるで一つの生き物のように自在に動く
守護者は風を切りながら、眼下の城塞を見た
城壁の弩から放たれた槍が、迫ってくる
「肩羽」たる自分たちの役目だ
守護者たちが群れの前に出て、槍を盾で弾くやいなや
入れ替わりに「鉤爪」たちが、城塞に鋭く突っ込んでゆく
この城も、間もなく落ちるだろう
戦場において、群れは完全だった
あの呪いの刃が、その翼を蝕むまでは
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これは、新しい群れの記憶
守護者には、円卓で一つ学んだことがあった
「がはは、いいからかぶってみろ。せっかく直したんだ」
この無頼漢と言う男は、やかましい
「こいつは騎士様におあつらえ向きだと、ピンと来たんだ」
そしてお節介で、聞く耳を持たない
兜を押し付けられ、思わず守護者は強く振り払った
この男に悪気などあるわけが無い
だが、兜は捨てたのだ。守るべき群れを失った、その時に
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これは、古い群れの記憶
取り返しのつかぬ敗戦で、守護者は一人生き長らえた
戦場において、群れは完全だった
どのような敵も打ち倒してきた
鳥人の騎士は死を恐れない
それは、全体のための誇りある役目であり
代わりの羽が群れを必ず補うのだから
だが呪いの刃は… 飛べなくなるという恐怖は
群れの完全さを容易く奪っていった
呪いの前に、守護者の盾は役には立たなかった
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これは、新しい群れの記憶
書庫にいると、不意に香ばしい小麦の匂いが鼻をくすぐった
あの無口な戦士の、気まぐれな調理が始まったのだろう
匂いに誘われ庭へ出ると、海賊の豪放な笑い声が聞こえた
射手が狙いを付けた弓が、大男に向いている
もう止めはしない。彼らなりの暇つぶしだと知っているから
物言わぬ剣士は、意に介さず、ただイーゼルに向かっている
完全には程遠く、実に不揃いだ
この集まりを、果たしてそう呼んで良いものか
そうした頃に、見慣れぬ商売人はやってきた
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これは、新しい群れの記憶
商人を排除したあと、守護者の背後から声がした
「群れを守るため、かしら」
そこには、隠者の姿があった
「はい、先生。今はこの円卓が… 私の群れなのです」
守護者の言葉に、隠者はただ静かに頷く
「…翼人の掟は知ってるわ。危険因子は排除しなければね」
商人が持っていた帳簿は、呪いの刃への手がかりとなるはず
召使人形と手分けして、探らなければならない
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これは、新しい群れの記憶
手にした三冊目にはイクタルスの呪いの秘密が記されていた
呪詛は遠い地、深奥の魔術とされるもの
血で綴られた言葉である
守護者は、記された類の魔術について、読んだ覚えがあった
「知ることこそが、守ることに繋がる」
そう信じ、蓄えた知識の… 先生との学びの賜物だ
守護者は、確かに知っている
風鳴り丘を駆ける馬群を、近海の海賊の冒険譚を
恐るべき「施設」を、流浪の絵描きの伝承を
それから… 深き森の魔女の、呪われた魔術を
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これは、新しい群れの記憶
群れを守るため、守護者は決断を迫られていた
目を閉じ思案していた守護者の元に、誰かが近づいてくる
「干渉することを、私は好まない」
そこには、人形の姿をした娘がいた
この群れに加わった新しい羽だ
「だが、あの魔女には借りがあってな
知ってからでも、遅くはないだろう」
それだけ告げ、人形は一枚の紙片を置き、去っていった
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これは、新しい群れの記憶
守護者は、ついに隠者を手にかけなかった
彼女は確かに、古い群れから翼を奪う呪いを生んだ
だが、新しい群れに欠かせぬ、一つの羽でもあるのだ
そのどちらも、守護者は知っている
守るべきものは定まった
ならば、騎士の証をかぶるとしよう
お節介な大男が直した、おあつらえ向きの兜
それを手に、守護者は新たな一歩を踏み出した
夜の蝕みから逃れ、私は目覚めた
関節の具合を確かめながら、靄のかかった記憶を辿る
…だが、ここは何処だ
何ともかび臭い空気ではないか
状況を掴む必要がある
まずはそこから始めるとしよう
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円卓の者と共に戦うにつれ、幾らか記憶の靄が晴れてきた
鏡を見る
そう、私はダフネ
誉れ高き人形師の一族、ノーザン家の娘だ
だが、あの嵐の日…
夜がお屋敷のすべてを飲み込んでいった
そうして私は、復讐者となった
この人形の体に身をやつして
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人形の体となっても、夢は見る
嵐の夜、お屋敷に動くものは他に無い
慣れぬ人形の体で、私はあてどなく彷徨う
そして、頬を何かが撫でる
決まってそこで、夢は途切れる
起き抜けに、鏡を見る。その感触を確かめるために
「夢の中だけでは、飽き足らぬか」
頬に黒い筋のような痕がついている
どうやら私は、随分と夜に気に入られているらしい
よもや人形の体まで、追ってくるとはな
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鏡を前に、夜の蝕みを覆い隠す
そうしながら、化粧道具をくれた召使人形の言葉を思い出す
「あなたサマの記憶には、大きな穴が空いており
そこを足掛かりに、夜が根を張っているご様子だとか」
隠者と言う魔女の見立てらしいが、どこまで信用したものか
それにしても、己で化粧とはどうにも慣れない
お屋敷ならば、人にやらせるものを
どうにか化粧を終え、鏡に映った滑らかな頬を撫でる
そう言えば、この人形の名は何だったか…
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鏡を見る
夜の蝕みが、よりいっそう進んでいる
「…不憫な」
お爺様が創ってくださった、私のかわいい子
人形の名を呼ぼうとしたが、やはり出てこない
代わりに、その頬を撫でる
この身に巣食う夜を断つ、その術を探らなくては
ふむ… 円卓の巫女ならばあるいは
復讐者は、いつの間にか眠りに落ちていた
意識が戻ると、見覚えのある建物の中にいた
忘れもしない、嵐の夜の屋敷
あの夜に、復讐者は立っていた
廊下の奥の一室に踏み入ると、次々に人を象ったものが現れた
襲うとも縋るともいえる澱みを、復讐者は打ち払っていった
目を覚まし、魔女の顔を見る
痣は見えず、人形の体も落ち着きを取り戻したようだった
事態は解決した…そう伝える復讐者だったが
色濃く影を落とした蟠りがあるとは、口にしなかった
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人形もまた夢を見る
私はそれを知っている
お嬢様が、私の頬をそっと撫でる
「お化粧をしましょうね、ダフネ」
そうしてもらうのが、とても好きだった
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鏡に映し出された頬を撫でる
期待した柔らかさも、ぬくもりも、この指にはない
どうやら私は、もう一度向き合わねばならない
あの嵐の夜に
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ミニアチュールを握り、鏡に向き合う
お嬢様はもういない
この頬を撫でてもらうことも、叶わない
私は元より人ではなく
もはや人形とも呼べぬだろう
ただ為すべきことだけがある
そうして私は、復讐者となった
あの嵐の夜を、終わらせるために